■I-1回戦の利用と、48Kモデム、48KTDMの開発
今回は、前回に続いてデータ通信システムで大幅にコストを節減し、かつ、
システム移行リスクを回避した事例をご紹介したいと思います。
話は、少し難しくなりますが、プロジェクトの進捗過程で起こるシステム
リスク回避策の事例としてもご理解いただきたいと思います。
具体的には、
◇I-1回線利用による高速データ通信システム
◇48KBPSモデムの新規開発機器の採用
◇48KTDMの新規開発機器の採用
といずれも銀行業界でははじめての新規開発機器の採用とシステム移行
リスク回避策の話です。
昭和50年前後、三井銀行では融資オンラインシステムを開発し、
システム移行過程にありました。
この融資オンラインは、従来の預金・為替系の勘定系のシステムとは
システム設計思想もアプリケーション開発の方法も新規の考えを
とり入れたシステム開発でした。
IBM社の標準パッケージであるCICSというオンラインリアルタイム
パッケージを採用するということ。
データベースシステムにもDL/1という汎用デーベースシステムを
採用すること。
端末は、IBM3270という汎用ディスプレー装置を使い会話型の
システムを実現するということ。
国内の外国為替システムと共用でシステムを開発すること。
単純な融資事務の勘定処理を行うだけでなく、与信管理システムを
含めた融資事務全体をカバーし、営業店の融資係と本部の審査部の
与信決裁システムとも連動させるという画期的なシステムでした。
この時代の融資・外為システムは勘定処理を中心に開発されており、
この時代にディスプレー端末を使い、会話形式でかつ、与信管理決裁
システムと連動させるというシステムは当時としては画期的なシステム
であったのです。
このシステムの位置づけとしては、預金為替の二次オンラインシステム
開発の先行プロジェクトとしての意味もあり、いろんなシステム開発上の
実験的な試みも加味した新規のシステム開発プロジェクトでした。
融資・外為という比較的に事務発生件数が少なく、月末・期末にピーク
事務量が集中的に発生するという特性のある業務形態のオンライン処理
システムの開発プロジェクトでした。
■このプロジェクトで、店別に順次新システムへの切り替え移行中に
大幅なシステム変更を行うべきか、それともシステム移行の安定性を
重視するための代替手段を選択すべきかの意思決定を迫る問題が発生
したのです。
当初のプロジェクトの計画では、関西地区の移行のためには、
当時のIBMが新規に開発したVTAMという通信制御ソフトと
3705の通信制御システムを採用することでした。
しかし、IBM本社でのシステム開発が遅れて、当初のスケジュールに
間に合いそうになく、間に合っても本邦初演でありシステムの安定性にも
疑問がありました。
日本IBMとしても勿論本邦初演で、米国実績もないというシステムの
導入で、システムのトラブル発生を予測していました。
関西地区移行のために東京地区で安定して稼動を始めたシステムを更改
すれば、システム全体のトラブルリスクが発生する可能性が大であるとの
プロジェクトチームからの報告がありました。
システムテスト期間を十分とるために、関西地区の移行スケジュールを
半年間延期すべきとの提案がプロジェクトチームより提案されました。
このプロジェクトチームからの提案には、大きな問題がありました。
開発コストが当初より大きく膨らむということ、システムの効率化の
享受が先延ばしになること、システム移行に伴うリスクも半年間で
完全に回避できるという保証がないということでした。
開発費用の面では、100人以上の開発要員を半年間投入すれば、
単純に一人月百万円として計算しても一月一億円の出費で6億円の
追加開発費が加算されるということを意味していたのです。
そこで、代替案の検討を開始しました。
ここで、IBM社の新規開発中の通信ソフトを導入しなくてもよい
方法の検討を開始したのです。
代替案としては、東京と大阪の事務センター間を高速のデータ通信回線
で結び、この太いデータ通信回線を何本かに分割して利用するデータ通信
回線の時分割利用という方法を検討することになりました。
前回説明したように、データ通信回線の自由化により、電電公社は、
I-1規格という広帯域の通信回線を提供することを発表していました。
このI-1回線を利用して、東阪間を48KBPSで結び、
これを理論上は40分割して1.2KBPSを40本束ねるシステムを
採用する方法がアイデァとして発想されました。
しかし、この方法は、日本では初めての経験であり、国産の製品は、
存在しませんでした。
米国産の製品が何社か存在していた程度でした。
米国の通信規格と電電公社の仕様は細部で異なっており外国製品を直接
導入するには、技術上解決すべき問題があり、採用上の懸念がありました。
そこで、このI-1規格を48KBPSで利用する高速通信装置である
48Kモデムの開発とこれを40分割するTDM(通信回線時分割装置)
の国産製品の開発を行う必要があるとの結論に到達しました。
当時の通信回線装置は、電電ファミリィーといわれる、富士通、日電、
沖電気、日立の四社を中心として開発・製造されていました。
この四社の中で、富士通がこの装置を開発中であるということでした。
富士通の工場に出向き、現場の技術者や試作機の状況等を調査しました。
信頼性と納期が一番の問題点でしたが、最終的には富士通製の未発表の
製品を採用することに決定したのです。
結果としては、当初スケジュールどおりに関西地区の移行が着実に
行われ、開発コストも増加することなく無事に移行が完了したのです。
実は、このシステムの採用により、IBM社の一億円以上もする
3705/3706という通信制御装置を導入する必要もなくなり、
ハードコストも大幅に節減できるという副次効果も示現したのです。
以上の説明で内容を理解していただけたでしょうか。
この分野に詳しく、当時の事情をご存知の方以外の方には、ご理解して
いただけないかも知れません。
■システムを開発する上でシステム開発プロジェクトが直面するのは、
システム開発スケジュールと開発コストの問題と技術上直面する
各種の問題等多種多様であり、これらをひとつひとつ根気よく解決する
ことがプロジェクト成功の秘訣です。
システム開発やシステム移行には常にリスクが伴うものです。
このリスクをいかに現実的な問題として解決していくかが、プロジェクト
マネージャーに必要な能力であり、KKDが必要といわれてきました。
すなわち、過去の経験(K)と勘(K)と決断のための度胸(D)が
必要ということです。
最近のプロジェクトマネージャーには、現場で習得したKKDが不足して
いるのではないかという懸念が指摘されています。
これが、当初問題提起した、本メルマガの根底を流れる2007年問題に
結びつくテーマであると考えています。
このKKDをいかに計画的に体得させるかが人材育成上の大きな課題である
と考えています。
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