■みずほ証券のミスインプットの教訓
今年も残り10日余りとなってしまいました。
不動産の耐震計算のプログラムに不正なデータを入力して、構造上の問題点を偽装した事件が大きな社会問題となっています。
コンピュータの出力を信頼してしまう風潮から入力の不正を見過ごしたとのことです。
また、みずほ証券の株式売買取引の誤入力に関しも大きな損失が発生するという事件が発生しました。
この両事件とも、コンピュータ処理の入力段階の誤操作(耐震設計に関しては意図的な不正入力)により、大きな損失を発生する事件となってしまいました。
コンピュータ社会が進展する中で、コンピュータシステムが社会に与える影響の大きさを再認識する事件であると思います。
大規模なオンラインシステムの障害は、時々マスコミを賑わすニュースになる場合が多いのですが、マスコミの話題とならないシステムトラブルは日常茶飯事に発生しているのです。
システム開発を担当している人間にとっては、今回の事件は、「対岸の火事」として傍観していられる問題ではありません。
コンピュータシステムに対する基本的な問題として、再考すべき問題といえます。
ところで、われわれが若い頃に言われたことがあります。
それは、「コンピュータ利用の三原則」という基本ルールです。
1)インプットがなければ、アウトプットもない。
2)論理が組めないものはプログラム化できない。
3)最終的には、人間の管理能力を組み込むこと。
以上の三原則です。
システムの規模やシステムの内容により、解釈は様々ですが、今回のみずほ証券事件に関して、当てはめて考えてみたいと思います。
■1)インプットがなければ、アウトプットもない。
これは、言うまでもないことですが、みすほ証券の端末入力で、新規上場のジェイコムの株式の売り注文をインプットすることが事件の発端となっています。
みずほ証券の担当者が、午前の取引開始直後、コンピューター端末で「61万円で1株」の売り注文を出すべきところを、誤って「1円で61万株」と誤入力してしまったことです。
この操作が異常であるということをシステムでも認識していたようで、警告メッセージが出ていたようです。しかし、この警告メッセージを無視して、売り注文がコンピュータにインプットされてしまったようです。
ここから、問題が発生することになったわけです。
コンピュータシステムの設計で最も重要なことは、インプットシステムの設計であると考えています。
いかに、誤ったインプットデータを排除するかが、システム設計上の【重要】な課題となります。
異常なインプットデータにより、システムの異常やデータベースの異常処理が発生するからです。
いかに、クリーンで正当なデータのみをインプットさせるかが【重要】なのです。
今回の場合には、ジェイコムの発行済み株式14500株の約40倍の取引ということで、取引自体が成立しないインプットであることは自明なのです。取引株数の限度や存在可否チェックを行えば異常であることは明白であったはずです。
また、株価の1円も、上場の初値予定が60万円前後の水準であり、この値段よりの乖離度から判断して異常であることも自明なのです。
上記の二条件から判断しても、インプット拒否すべき処理であることは自明であり、警告メッセージで済ませるべきインプットではないはずです。
どうしても、例外的なデータをインプットする必要があれば、例外インプット処理用の端末インプット画面を設定し、厳重な承認処理手続きを経てインプットすべきなのです。
全くの初歩的な部分のミスを排除すべきシステムが組み込まれていないことが根本的な原因ということになります。
■2)論理が組めないものはプログラム化できない。
この原則は、コンピュータは万能と考えている人がおり、コンピュータに過大な期待を寄せすぎる人に対して説得するときに利用する原則です。
設計する人間が論理的に考えて、ロジックとして組み込むことができないものは、コンピュータ処理不能であり、システム化できない部分であり、人的な対応が必要であるという意味です。
また、論理的に組み込むことが可能でも、コンピュータの処理能力の限界を超える処理はシステム化できない場合も多いということです。
今回の誤インプットは、論理的に組み込むことが可能なものであり、当然システム設計の段階で組み込んでおくべきロジックと言えます。
この点では、東証側のシステムの欠点を露呈したことになります。
■3)最終的には、人間の管理能力を組み込むこと。
コンピュータシステムも所詮は人間が作り上げたシステムに過ぎません。
配慮不足や機能不足は数多く内包するシステムであるということです。
いわゆる、明確にバグといわれる異常な動作以外にも、今回のような機能設計上の漏れが存在するということです。
通常は起こりえない「想定外」のトラブルが発生することは、システム開発に関与した人間ならば実感できる現実です。
異常事態が発生した場合を想定して、システム上は、強制取引処理というものを組み込みます。
取引処理を人為的に強制的に停止する機能を組み込みます。
停止には、全面的にシステムを停止するケース、部分的な限定した取引を停止するケース、異常な取引のみを停止するケースといろいろあります。
今回のケースでは、みすほ証券の取引のみを取り消す処理が当然組み込まれていたはずですが、これが正常に機能しなかったということが、損害を大きくした要因となっています。
損失を東証にも負担させるということになる根拠になっているようです。
誤入力に気がついた場合には、端末インプット側から取消処理するケース、コンピュータセンターの管理者による強制取消処理が当然組み込まれているはずです。
これが、今回のケースでは、取消処理が正常に作動しなかったということで、被害が拡大することになったようです。
しかし、コンピュータシステムが正常に稼動しなかった場合でも、システム運営者から全端末に異常取引の停止メッセージを発信することも機能としては組み込まれているはずで、このメッセージを発信すべきであったとも思われます。
マスコミを利用しての広報の方法もあったはずです。
残念ながら、システムの異常動作は、よくあることであり、異常が発生した場合には瞬時の状況判断を要求されます。
コンピュータ管理者には、迅速な対応処理が求められることになるのです。
即ち、どんなに精緻に作られたシステムでも最終的には、「運用・管理する人間の能力」に依存することが大ということになります。
人間の管理能力とコンピュータの処理能力の両者の能力を組み合わせた「マンマシンシステム」の設計が【重要】という教訓となります。
以上、「コンピュータ利用の三原則」をみすほ証券事件に当てはめ、簡単に考察してみました。
■それにしても、みずほ証券の誤発注問題では、わずか16分間の間に「結局は400億円」の損失が発生したわけですから、コンピュータ社会の脆弱性を再認識する契機となります。
最近では、個人でも、ホームページの画面を1回押すだけで、株の取引や買い物が瞬時に成立する時代になっています。
われわれの身近な問題として、単純なインプットミスの怖さを再認識すべき事件であったといえます。
みずほ証券と同様の株式取引の発注ミスは、2001年の電通の株式上場の際にも起ていました。外資系証券が「61万円で16株の売り」とするところを、「16円で61万株の売り」と誤って発注したケースだったようです。
株数と株価の入り繰インプットミスは発生しやすいということです。端末のインプット画面の設計に問題があるのか、インプット指図書の設計に問題があるかの原因を追究し、再発防止対策を厳重化すべきであるのは当然のことです。
同じ2001年、別の外資系証券もいすゞ自動車株の9万株の売りを9000万株の売りと誤発注した事例もあったようです。
急増している個人投資家のネットでの株取引も、コンピューターに株数、売買価格を書き込んで売り買いするという意味ではみずほ証券とまったく変わりません。
個人取引の場合には、個々人の預かり株数や個人の信用限度により取引の異常を発見する仕組みが組み込まれているはずですから、今回のような大事件にはならないとは思われますが、大なり小なりのリスクが発生することは事実です。
株取引以外でも、一昨年には総合商社丸紅のネット直販サイトでNEC製パソコンの販売価格198000円を19800円とゼロを一桁ミスインプットし、買い注文が殺到した事件を思い出します。結局、丸紅は19800円で販売せざるを得なくなり、約二億円の損害を出したとされ、直販サイトは閉鎖されてしまいました。
システム設計に係る人間にとっては、システム設計上で、いかに誤操作や誤入力を発見し、排除するシステムを組み込むか。
誤操作や誤入力が発生した場合でも、システムの被害が拡大する前にシステムの機能を取り消す方法を組み込みか。
異常事態が発生した場合に、組織として異常事態に対応するための人材の教育と訓練を心がける必要があります。
また、個人的にネット取引の利用者立場としても、単純なインプットミスから大損害を発生させるネットワーク社会にわれわれは生活している訳であり、最後のインプット確認には細心の注意が必要あるということを肝に銘じておきたいものです。
【編集後記】
みずほ証券の決着は、みずほ証券の400億円の実損発生、東証トップの退任と減俸、富士通の経営幹部の減俸処理ということと、誤入力と気付きながら、大量の株取引により利益をあげた大手証券会社の利益処分の問題へと決着に向かいつつあります。
しかし、この問題は、各方面に大きな後遺症を残すことになるものと思います。
システムに係る者として、大きな教訓としたいものです。
今回のメールは、今年最後のメールになるものと思います。
読者の皆様には、今年もこのメールをお読みいただきありがとうございます。
来年も、その時々のトピックスを捉えて、コメントしていきたいと思います。
来年もよろしくお願いいたします。
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